vol.10 新島での経験を糧に次の一歩

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◎新島での経験を糧に次の一歩                                                         村井 謙治

新島で2度目の7月を迎えました。今年は昨年に比べ雨も多く、鬱陶しい日が続きましたが、梅雨が明ければ夏本番を迎え、この島が「最も新島らしい姿」に様変わりです。

▽7月の記憶

ところで、7月は自分にとって幾つかの思い出の月でもあります。

2001年7月。それまで16年間勤めた会社を「一身上の都合」で辞めました。「あと20年くらい、同じ会社勤めでいいのだろうか」「個々の人材を大切にしているようにはみえない組織に、展望は感じられない」。心中はかなり複雑でしたが、その前年、南米駐在から戻ったばかりで「自分らしい生き方をしてみたい」と南米仕込みの楽観主義が勝ったのでしょう。両親や親しい人たちにはかなり反対されましたが、その年の5月の連休明けには退職の意思を固めていました。

とはいえ、40歳を過ぎ、次の仕事も見つけないで辞めてしまうとは、いま振り返ると、よくそんな大胆な決断ができたものだと、自分に呆れるばかりです。7月半ば、組織を離れることができた解放感に満ちていましたが、暑さの中での引っ越し作業はかなり大変でした。住まいを引き払う際、引っ越し屋のおじさんに「会社は辞めない方がいいよ」と諭され、その言葉が時に頭をめぐることに。なんとかその後、医学部へ進み、医師免許を得て今に至るのですが、この転身は「偶然、運が良かっただけ」としか思えません。ただ「独身だったから、そんな冒険もできた」と言う知人もいましたが、たぶん家族がいても自らの性分で同じ決断をしていたでしょう。

会社を辞める1年前の2000年7月。それまで3年6ヶ月駐在していた南米から帰国しました。日本をしばらく離れていたこともあり、渋谷界隈の光景の物珍しさを感じたのをよく覚えています。今にぎやかに来日している外国人たちの視線とどこか重なっていたのかもしれません。

▽医師として足場固め

さらに、それから5年ほど遡る1995年7月には、パリに立ち寄っていました。その年の5月中旬からの50日余かけての海外出張で、モロッコ、カナリア諸島を経て西アフリカのセネガル、マリ、コートジボワール、ナイジェリア、南部の南アフリカ、ジンバブエ、モザンビークをめぐり、マダガスカルからの帰途パリへ。当時、印象的だったのは、夏休みで旅行中の日本人女子大生たちが「地球の歩き方」を手に名所を闊歩する姿でした。当時はまだ通貨はフランであり、その後、何度かパリを訪ねました。いつか暮らしてみたい街の一つですが、なかなか実現しそうにありません。一方で、南米の辺境やカリブ海の島、サハラ以南のアフリカで、地域医療にかかわってみたいとの思いも抱き続けており、医師として足元を固めなければと自分に言い聞かせています。

▽優しい島で

年を重ねる毎に日々は足早に過ぎていくように感じます。が、それなりに人生の節目や印象的な出来事は、案外、振り返ることができるのだと、こうやって書いてみて感じています。この島での夏もきっと鮮明に記憶に刻まれるのだろう、と漠然とした思いを抱き始めています。

大学からの派遣で新島に赴任してから1年3ヶ月となる7月末で仕事を終え、離任します。患者さんや家族、診療所スタッフを含むさまざま島民のみなさんのおかげで、ようやく新島の良さが分かりかけてきたところでした。感謝するばかりです。新島での経験を糧に次への一歩を踏み出したいと考えています。

この島がお年寄りにも、若者や小さい子どもたちにも、優しく、過ごしやすい場であり続けて欲しいと願ってやみません。この文章に目をとめてくれたみなさん、どうかお健やかにお過ごしください。

2015年7月 

追記:8月5日夕、駆けつけてくれた患者さんや診療所のスタッフの面々、家族に見送られ、新島空港を飛び立ちました。ほんの2週間前に緊急のヘリ搬送に同乗した時、何の感傷も抱かなかったのとは違って、離陸すると1年3ケ月にわたって過ごした新島での様々な思い出が走馬灯のようにめぐりました。みなさんに支えられて診療を続けることができ、わずかですが成長できたのではないか、と振り返っています。この場を借りて、あらためてお礼を言わせていただきます。離島翌日からは早速、都内の病院や順天堂医院での仕事に携わっています。バテないようにしてこの夏を乗り切りたいものです。いつか再会の日まで、どうかみなさんお元気で!  村井謙治(2015年8月10日)

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